深海に潜る

ひとつ、ひとつ。

線を足して、足して。

輪郭をなぞって。


途方ものない

その完成図を目指して

描く。


この作業をしていると

深海を潜るような

“そこ”に吸い込まれるような

そんな感覚に陥る。


外にいても人の声が

全く聞こえなくなって


私とキャンバスだけが

存在する世界になって


上か下か

中か外か

右か左か


私がいるのか

いないのかもわからなくなる。


私にとって

このゾーンに入ることは

他の何にも代え難い

大変心地よい瞬間である。


あるダイバーが言っていた。


人間の限界まで

深く深く海に潜ることは

私にとって命がけの行為。


でも、それをやめられないのは

海と私が一体化するあの瞬間が

地上では味わえないほどの美しく

心地の良いものだから。


私はダイバーにはなりたいと思わない。

けれど、彼女の言葉は共感できる。


私にとって「かく」作業は

彼女にとっての深海を目指して

潜ることそのものだった。


もちろん

そんな瞬間を体感したからとて

出来上がる作品がたいそう素晴らしいもの

とは、限らない。


けれど

私はその瞬間があるから

かくのをやめられないし


もっと、もっと

次へ、次へと

探求したくなるから

きっとまだ成長できると思う。


そして今は

深海を潜るような心地よさを

実感し始めた程度だけど


もっと先へ進めば

今はまだ、見えていない

新しい世界が見えるように

なるのかもしれない。


そうした

新しい世界を見続けることこそが

私の生きる意味になっている。




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